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Pavane pour infante défunte [ピアノ曲]

モーリス・ラヴェル作、「亡き王女のためのパヴァーヌ」。
5分ほどの小品ではあるが、非常に美しいメロディと和声が印象的な曲である。
オーケストラ版の方が演奏される機会は多いようだが、もともとはピアノ独奏曲。
私にとってはもっとも古い「レパートリー」である。

中学2年のときに、はじめてオーケストラ版を聴いてその美しさに感動し、楽譜を買いに走った。
ただ、当時ラヴェルはまだ版権が切れておらず、日本で手に入るのはフランスのデュラン社の
輸入楽譜のみだった。わずか4頁の楽譜のために、当時のお小遣いからするとたいへんきつい
2000円を支払い、手に入れた楽譜。どれほど感慨深かったかはご想像いただけよう。

そのとき以来、何度となく弾いている。いまでも時折、思い出したように弾きたくなる。
私の手では少し届ききらないところをいかに誤魔化すかもずいぶんと慣れて、
大学時代には「なんで1オクターブ届かないのにあの曲が弾けるんですか?」と
訊かれたこともある。

弾くこと自体は、難しくはない。ただ、美しく弾くことは、たいへん難しい。
幾重にも重なり合う音のひとつひとつをコントロールしきらないと、メロディが埋没したり
和音が出しゃばったり、フレーズの一部だけが突出したり、粒が揃わなかったりする。
特に後半部、高音のメロディが絡み合う部分は、透き通った音で弾くとため息が出るほど
綺麗なのだけど、ちょっとでも気を抜くと台無しになってしまう。

ラヴェルらしい優雅で繊細な曲、というのが一般的な評価らしいが、
私はある意味とてもラヴェルらしからぬ曲だと思う。
私はラヴェルを印象派の人だとは思っていなくて、きわめて冷徹な観察にもとづいて
計算されつくした緻密な構造を組み上げる、「印象」という語からはほど遠い人だという
感想を持っている。
その彼の、若気の至りなのか、唯一理性より感傷が勝った曲が、この曲だと思うのだ。
それでもなお、彼の鋭敏な感覚にもとづく冷徹な知性ははっきりと息づいていて、
過剰に感傷に流れてはいない、ギリギリの美しい抑制を保っている。
彼自身はこの曲の「亡き王女」をいろいろと憶測されるのを嫌ったとか、
この曲を駄作だと言ったというようなエピソードも耳にしたことがあるが、
想像するに、若いころに書いたラブレターを大人になってから見つけたような、
たまらない恥ずかしさがあったのじゃないかと思う。

http://www.youtube.com/watch?v=oUpjlmj-cMc
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