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ファジル・サイ ピアノリサイタル [コンサート]

L.Janáček: ピアノ・ソナタ変ホ長調 「1905年10月1日街頭にて」
L.v.Beethoven: ピアノ・ソナタ第17番ニ短調 op.31-2 「テンペスト」
S.Prokofiev: ピアノ・ソナタ第7番変ロ長調 op.83 「戦争ソナタ」
M.Mussorgsky: 組曲「展覧会の絵」
(Encore) F.Say: 「ブラック・アース」
       G.Gershwin/Say: 「サマータイム・ファンタジー」

  Fazil Say(Pf.)


実はこのピアニストのことは全く知らなかったのだが、音楽堂にあったパンフレットを
みて、なんだかすごく気になったのだ。
まず曲目に惹かれたのだが、しかし大当たりの予感がした。ただ、もしかすると
大外れの可能性もあるかな、とは思ったのだけれど。

結論から言うと、大当たり、なんだろうな。
あまりにもエキセントリックな、驚天動地の演奏。ここまでくると、良い悪いではなく、
好き嫌いでしか語れない気がする。で、私はかなり気に入ったのです。
笑いがこみ上げてくるようなところもたくさんあったのだけれど。

かなりのボリュームでメロディを歌いながら、さらに乗ってくると足をどんどん踏み鳴らして
リズムを取って、身体全体を揺らし、傾け、空いている手はひらひらと音を導くように揺れ、
まるでハリウッド映画の登場人物のように、顔の表情もころころと変わる。話しかけたり、
大げさに驚いたり、喧嘩をしたり、陶酔したり。
私の聴いた限りでは、楽譜の音を変えているようなところはなかったと思う。
けれど。テンポ、緩急、強弱、アーティキュレーション、すべてがオリジナル。
結果として、知ってる曲とは全然違ったものになってしまっているのだ。
かなり派手なミスタッチも随所にあったのだけれども、ここまで個性的な演奏をされると、
それも一つの味にみえてしまうという、なんというか、本当に何といえばいいのかな。



ヤナーチェク。テンポの揺らし方やpからfへの変化がとても極端で、アクセントが独特の
ところについていて、一瞬知らない曲かと思ってしまったくらい。
fでは思いっきり叩くので、音色なんて度外視、かと思いきや、しかしどこか、ちゃんと
流れに調和しているのだ。油絵具を叩きつけても、ちゃんとした絵画ができるみたいに。
そう、まさに油絵具のイメージだった。近くでみるとたしかにガッツリ塗りつけられている
にもかかわらず、遠くからみるとどこか透明感の感じられる油絵のように、なぜこの素材で
この出来上がりになるのだろうと、心底不思議。

ベートーヴェン。第1楽章冒頭の第一主題、遅っっ!!! で、次の下降音形はふつうより
かなり急速に、畳み掛けるような勢いで突っ走り、フレーズ終わりのターンのところでまた
極端なリタルダンド。Largo-Allegroどころか、Grave-Presto、いや、もっと極端だったかも
しれない。いくらなんでもこれはやりすぎ、とふつうなら思うんだろうけど、でもそれも個性に
聴こえてしまう、何かがあるのだ。再現部手前のところでは、次の音がいつ鳴るのか、
息をひそめて待つ緊張感が、本当にものすごかった。
第2楽章ももともとAdagioの指示があるが、それにしても遅かったと思う。
ポトン……ポトン……という感じで音が降ってくるイメージ。
第3楽章は、意外にあっさり。嵐だから叩きつけるのかと思ったら、むしろ軽やかなくらい。
嵐の中を嬉々として飛び回る鳥、なんてものがいるのかどうかは知らないが、強い風に
乗って飛ぶのが嬉しくてたまらない、というような、妙に明るい感じがした。

プロコフィエフ。この前「魔王の微笑」なんて書いたばかりだが、その印象が吹っ飛んだ。
おどろおどろしさなんてどこにもない、なんだか健全な感じ。ホラーハウスとか、あるいは
かなりハードな山登りかキャンプに出かけます、というような、ワクワク感と、緊張感。
自然は厳しいんだよと雷のようにピアノを叩きまくるけれども、全体に感じるその高揚感は
まったく消えないのだ。
第3楽章は、テンポとしては決して速くないのに、イっちゃってる感はものすごかった。
なんなだろう、あれは。

休憩が20分と長めだったのだが、調律が入っていた。叩きまくって音が狂うのも
織り込み済みだったのかな?

そして後半、「展覧会の絵」。
展覧会の絵の全部がカリカチュアに架け替えられている感じ… でもこれが面白いのだ。
プロムナード。手を大きく振って元気よく行進。さあ進め!
グノーム。速めでかつ軽め、不気味さよりもちょこまかと動く感じ。
古城。まだまだワシは現役じゃ!と、古い城だからこその存在感。
テュイルリーの庭。子どものかん高い声でもううるさいことやかましいこと。
 口げんかというより、つかみ合い?
ビドロ。たしか牛車だったとおもうけど、これじゃまるで蒸気機関。力強い。
卵の殻をつけた雛鳥のバレエ。踊るよりやんちゃをしまくる雛たちで大パニック。
サミュエル・ゴールデンベルクとシュミュイレ。ゴールデンベルク氏のでっぷり太った
 お腹が見えるよう!! シュミュイレは金持ち氏にいじめられてるのかと思ったら、
 意外にずるがしこくって気が合うんじゃないの? 最後は2人してなんか企んでそう。
リモージュ。おばちゃんたちの姦しいおしゃべり。いちばんふつうに聴こえた。
カタコンブ。死者達が静かに眠る、ところに閻魔様が乱入して叩き起こしてる。
死者達とともに死せる言葉をもって。死せる言葉ってずいぶんと生気に満ちているもんだ。
バーバ・ヤガー。シワシワの骨と皮の偏屈おばあちゃん魔女、を想像していたら、
 陽気でえらく存在感のある、しかし怒らせたら猛烈に怖い魔女が出てきた。
キエフの大門。いろんな人が通ってゆく。ふつうに通り過ぎたり、自動車がびゅん!と
 走りすぎたり、亀が見ているといつ足をあげて進むんだろうとハラハラするほどゆっくり
 通って行ったり、最後にはどこぞの王侯貴族かそれとも将軍様か、とっても虚仮威しな
 行列を組んで勿体振ってお通り遊ばした。

というようなイメージだったのでした。面白かったー。

アンコールは自作曲。クラッシックではないので、かなり雰囲気が変わった。
1曲目は、宇宙の神秘、かなんかの科学番組のBGMに使われていそうな感じ。
ちょっと東洋風な、シルクロードとかそのあたりのイメージもあった。内部奏法とは
言わないのか、弦を右手で圧さえて震動を止めながら左手で鍵盤を叩く奏法を多用。
2曲目はサマータイムのアレンジなんだけど、すごく綺麗だった。検索してみたら、
なんと楽譜が売っているではないですか! ちょっと欲しいかも(弾けるかどうかは別)。

自作もとってもステキなんだけど、でもこっちはすごくまともというか、奇を衒うわけではなく、
ふつうに美しい。
これもいいけど、古典曲のあの個性というにあまりある個性は、ちょっとクセになりそうだ。
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