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OEK・リープライヒ [コンサート]

2011.5.25(水)19:00~ @石川県立音楽堂コンサートホール
Arvo Pärt: レナルトの追憶に
Franz Joseph Haydn: 交響曲第98番 変ロ長調 Hob.I-98

   *  *
Witold Lutosławski: 葬送の音楽(バルトークの思い出に)
Karl Amadeus Hartmann: 交響曲第4番

 Alexander Liebreich(Cond.)
 オーケストラ・アンサンブル・金沢


今回のOEK定期公演は、追悼の音楽集だった。
震災後にプログラムが編まれたわけでもなかろうに、こういうときにふしぎな巡り合わせや
大いなる偶然というものを感じる。



第1曲は、エストニアの現代音楽家ペルトの作品。レナルトというのは、1992年から2001年
までエストニア大統領をつとめた、レナルト・ゲオルグ・メリ氏のこと。
ゆったりとした、重厚な、弦楽合奏曲である。
繰り返し、繰り返し、淡々と紡がれるメロディ、芯の太い弦楽器の音色は、弦楽合奏という
よりも、むしろ大聖堂に響くオルガンのようだった。コントラバスの低音が、お腹に響く。

次はハイドンの交響曲。これも一説によれば、モーツァルトを悼んで作られたという。
とはいえ、さほどに悲しい雰囲気ではない。モーツァルトには、たしかに悲痛な追悼音楽は
似合わないと思う。
なぜだかチェロバス以外の方々は全員起立での演奏。当時のスタイルなのか?
しみじみと、指揮者さんによるオーケストラの味わいの違いを楽しんだ。
井上さんの指揮のときには、軽やかさ、自由さが印象的なOEKの古典音楽だけれど、
リープライヒ氏の指揮は、密度が高く骨太な感じ。
たとえてみるなら、前者はふわふわのスフレケーキ、後者はどっしりしたザッハートルテ、かな。

休憩をはさんで、ポーランドの作曲家ルトスワフスキによる、バルトーク追悼の弦楽合奏曲。
大震災後のベルリンフィルのコンサートで、犠牲者を追悼して奏でられた曲でもある。
チェロの四重奏に始まる、無調かつ変拍子の音楽。
全体として、ものすごくパート数が多く、つまり同じヴァイオリンでもいくつもに別れてメロディを
奏しており、重なり合う音が非常に多くて、もちろん不協和音なのだが、でも不思議な調和と
美しさがあるのだ。
力強いヴァイオリンの単調な音形があるかと思えば(チイチイパッパの音形と言って笑われた)、
急に静寂が支配するかすかなピツィカートのみの箇所もあり、ほとんどすべての楽器が違う音を
出しているのではないかと思うほどのわけがわからないくらいの音の塊がメロディを奏でるかと
思えば、急にそれがユニゾンになる。
激しい怒りではない、表面的な諦めと裏腹にじわじわとお腹に溜まってゆくような、底籠もる
エネルギーの緊張感、それが急に一本化されたときの、その迫力と美しさといったら!
最後はかすかなチェロとヴァイオリンの掛け合いで、すうっと消えてゆく。幽霊のように。

最後はハルトマン。ああ、現代曲だなぁ、という感じの、交響曲という標題だが弦楽合奏曲。
なんというか、ちょっと私にはわからない、無理… という感じだった。
幾何学模様だと、ある程度の規則性とかがあると思うんだけど、色のついたただの丸が、
てんでバラバラに、無秩序に、好き勝手に動き回っているようなイメージ。
これが人間とか、少なくとも生物だったら、そういう無秩序も理解できるのだけど、
ものすごく無機的で、なのに規則性がないのが、気持ち悪い。
それで思い出したのが、笠井潔の『哲学者の密室』だった。
第二次大戦中のナチスの絶滅収容所における、尊厳も人間らしさも剥奪された、無名の、
無意味な死の大量生産。
そう考えるならば、大戦中の死者たちを悼む音楽に、これほどに相応しい曲もないのかも
しれない。この気持ち悪さこそが、あの大戦そのものだった、ということなのかもしれない。
だが。
不安と恐怖、不条理、空虚な絶望に満ち満ちて、ただひたすらに、後味が悪かった。
第2楽章はまだしもリズムがはっきりしているだけに聴きやすかったのだが…
決して、不快な音ではなかったのに、聴いているのが苦痛になってくるような音楽。
改めて、現代音楽ってなんだろう、と思った。

アンコールはなかったのだけれど、あの曲のあとに、ふさわしいアンコールがあるとも思えない。
そういえば、現代曲の3曲は、どれも消え入るように音がなくなって、そのあとの静寂までが
曲の一部、壊してはいけない空気を醸し出していた。
終わったのかどうかも定かではない、独特の雰囲気。
最初に拍手を始めた人、もうちょっとこの息を詰めるような緊張と静寂を味わっても良かったんじゃ?

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