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Prokofiev: Sonata No.7 [ピアノ曲]

一曲クラッシックの曲を選んでほしいと、お題をいただいた。
そのお題が、「闇,とか,暗黒とか,淵の底とか」。
それはそれはたくさんの曲が頭の中を駆け巡ったのだけれど、最終的に勝利したのは。
私の頭の中で、美しい魔王様が、うっすらと笑みを浮かべたのだ。
微笑、というにはあまりにも酷薄で、底知れない感じのする微笑だった。
で、そのイメージの元になったのが、プロコフィエフ作ピアノソナタ第7番、である。

クラッシックにはあまり馴染みのない人たちに聴かせるには、ちょっと刺戟が強すぎるかな、
と思わないでもなかったのだけれど、そこはお題がお題だから仕方がない。
と割り切って、少々ドキドキしながら持ち込んだ1曲だったけれど。
結果としては、逆に「これがクラッシック?!」という新鮮な驚きを与えられたようだ。

今回持って行ったのは、若きアレクサンダー・ガヴリリュクの演奏。
時間の関係で第2楽章は割愛したのだけれど、スピード感のある演奏は、
高性能の再生機器のおかげもあって、私も驚くほどの迫力だった。


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An der schönen blauen Donau [ピアノ・トランスクリプション]

ヨハン・シュトラウス2世、「美しく青きドナウ」。膨大なクラッシック音楽の中でも、
世界中でおそらくもっとも親しまれている曲のひとつだろう。
ほとんどは管弦楽曲として。しかし実は最初は合唱曲だったらしいですね。

そしてこの曲にも、豪華絢爛たるピアノ用編曲が存在する。
アドルフ・シュルツ=エヴラー編、「ヨハン・シュトラウスのワルツ『美しく青きドナウ』の
テーマによるアラベスク」というのが正式名称(たぶん)。
きらめくような高音、威風堂々たる低音、緩急も強弱も自由自在な変幻ぶり。
このトランスクリプションをきけば、管弦楽なんてタイクツなものだ、と思わずに
いられない(オケ好きの方、ピアノ偏執狂のタワゴトだと思って流してください)。

オーケストラが、たとえば西洋近世の女王や王妃の肖像画にあるような、どっしりとした
厚手の織に金糸銀糸で刺繍をほどこした豪華なドレスだとすれば、
ピアノ・トランスクリプションは、ふわふわのシフォンやサテンにレースやビーズ、宝石や
スパンコールをいっぱいあしらった、キラキラと軽やかにひらめくドレスなのだ。

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Islamey [ピアノ曲]

ロシア五人組のひとり、ミリィ・バラキレフの代表曲のひとつ、「東洋風幻想曲:イスラメイ」。
ピアノ曲で世界一の難曲は何かという質問に、必ず挙がる曲の筆頭でもある。
トランスクリプションではもっといっぱい音を増やして難しくなっているものもあるだろうが、
原曲でココまで、トランスクリプションに匹敵するほどに絢爛豪華な曲というのは、たしかに
あまりないと思う。そして絢爛豪華なだけにとどまらない、しっとりとした雰囲気もあり、
エキゾチックなメロディそれ自体の吸引力もある、本当に魅力的な曲である。


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南西ドイツフィル&庄司紗矢香 [コンサート]

W.A.Mozart: 交響曲第31番ニ長調 K.297 「パリ」
S.Prokofiev: ヴァイオリン協奏曲第2番ト短調 op.63
 (Encore) J.S.Bach: 無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第1番ロ短調
                BWV1002より「ブーレ」
A.Dvořák: 交響曲第8番ト短調 op.88
 (Encore) A.Dvořák: スラヴ舞曲op.46 No.8(フリアント)

  南西ドイツ・フィルハーモニー交響楽団
  ヴァシリス・クリストプロス(cond.)
  庄司紗矢香(Vn.)


今日の感想。すごくすごく楽しかった!! サイコー!! 踊りだしたい気分。

モーツァルトは、とにかく軽やかで明るく華やかに、というのが「らしい」演奏だとすれば、
今日のモーツァルトはとっても「らしくない」、地に足のついた感じのする、骨太の演奏だった。
でもこれがとても新鮮で良かった。旅から旅へとひらひら飛び回っていたモーツァルトだけれど、
長生きしてれば腰を落ち着けることもあったかもしれない、そうしたらこんな風になったのかも?
そう思わせるような、まぎれもなくモーツァルトでありながら、どこか落ち着いて、
根を下ろしたものがしっかりとある感じ。


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スロヴァキアフィル [コンサート]

B.Smetana: 連作交響詩「わが祖国」より 「モルダウ」
F.Chopin: ピアノ協奏曲第1番ホ短調 Op.11
 (Encore)F.Chopin: エチュード Op.10-5 「黒鍵」
A.Dvořák: 交響曲第9番ホ短調 Op.95 「新世界より」
 (Encore)A.Dvořák: スラヴ舞曲 Op.46 No.7

  スロヴァキアフィルハーモニー管弦楽団
  レオシュ・スワロフスキー(cond.)
  宮谷里香(Pf.)


モルダウはさすがの十八番。モルダウってこんなに哀しい曲だったっけ? と驚いた。
出だしの頼りなげなパッセージから、川が流れ出しても、なんだかとても哀しげなのだ。
落ち着いたテンポのせいだろうか? 寒い冬の、雲が重くたれこめた空のような感じ。
寂しいというほど湿っぽくもなく、儚げというほど弱々しくもなく、諦めというほど暗くもない、
でもやはり通奏低音のように悲哀がたゆたっているのだ。
曲が盛り上がっきても、人間の活気を感じさせるのではなく、ただひたすら自然の厳しさ、
激しさを思わせる、不思議な演奏だった。

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Gaspard de la nuit [ピアノ曲]

先日、夜の犀川のほとりを歩く機会があった。
せせらぎの音に重なって聞こえる、自然のささやき、ざわめき、呼び声。
その兇暴なまでの声に、眩暈すら感じ、息苦しいまでの心地になった。

モーリス・ラヴェル作、「夜のガスパール」。
このブログのタイトルも、この組曲からとったものである。
ラヴェルは私がもっとも愛する作曲家で、その作品世界のあまりの巧緻さ、繊細さには、
本当に感嘆を超えて戦慄すらおぼえてしまう。
「夜のガスパール」は、アロイジウス・ベルトランの詩集「夜のガスパール――レンブラント、
カロー風の幻想曲」(これには芸術を求めた作者に悪魔が与えたものだとの幻想的な
散文が付されている)に着想を得た曲集で、「オンディーヌ」「絞首台」「スカルボ」の
3曲からなっている。

第1曲、「オンディーヌ」、水の精。ベルトランの詩の大意は、オンディーヌが雨とともに人間の
男を訪れ、求婚する。しかし人間の男が、自分は死すべき人間の女を愛するのだと
その求愛を断ると、オンディーヌは涙をこぼし、哄笑とともに消えてゆく、というもの。

私はこの詩そのものからは、さしたる感銘を受けたことはない。
しかしラヴェルはこの詩に、何という美しい曲をつけたことだろう!
水の粒を一滴ずつ織り上げたような、精緻な反物の上に、描き出される世にも不思議な旋律。
それは単に幻想的とか神秘的というにとどまらない。
私たちのルールではない、しかし同じくらいに、あるいはそれよりもなお厳然とした、
かれらの世界の論理を感じさせるのだ。
どうして人間にすぎなかったはずのラヴェルが、このような旋律を生み出すことができたのだろう?

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