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『アリアドネの弾丸』 [小説]

海堂尊さんの小説である。(宝島社、2010年9月出版)
映画やドラマになった『チーム・バチスタの栄光』のシリーズ第4弾。
つまり、大学病院を舞台にした医療小説である。
なぜこのブログでいきなり医療小説か、というと、思わず噴き出してしまうような記述に
行き当たったから、なのです。
あ、ネタバレはありませんので御安心を~。
以下、引用。

「田口先生、まさか先生は、今までずっとこの曲がモーツァルトだと思っていた、なんて ことはないですよね?」
(中略)
「ショスタコーヴィチとモーツァルトの区別もつかないなんて、それでも本当にお医者さん ですか。(中略)せっせと録音テープ作ったのも、ショスタコーヴィチ・ファンを、ひとりでも 多くしたかっただけなのに。よりによってあの八方美人のモーツァルトなんかと聴き 間違えるだなんて……」
(中略)
「旧ソヴィエト時代の作曲家の第一人者であるショスタコーヴィチは、第二次世界大戦勃発前夜、国威発揚の曲を作れという厳しいお達しと共に簡潔、明確、真実の作品が望ましいという、音楽家の作風にまで口を差し挟む圧力の中、懸命に現実と格闘し続けた音楽家です。特に今流れているシンフォニー五番『革命』は国威発揚の下で、自分の芸術姿勢さえも根底から見直しを余儀なくされた果てに作られた、いわば一人の芸術家の死、そして再生を証言している、まさに革命的な楽曲なんです。僕はそこに、組織に圧殺されてもなお自分の尊厳を守り続けようとしたひとりの芸術家の魂の叫びをみるんです。それを、能天気に才能だけでさらさら曲を書き上げた、たわけたアマデウスと間違えるだなんて……あんまりです」(160-161頁)

ぷぷぷ。実はこれを読むちょっと前に、モーツァルトを聴いて「能天気」なんて評したもので、
モーツァルト好きの方からの顰蹙を買ったものですが… 
おんなじこといってる。海堂さんとは気が合うかも(笑)

いや、念のために繰り返しますが、別にモーツァルトが嫌いというのじゃないんですよ?
時代的にも彼の作品は今でいうポップスみたいなもので、個人的な思想や苦悩を表現
するようなものではそもそもなかったし、ショスタコとはまったく質が違うというだけのこと。
サロン音楽としては、軽やかで耳にやさしくて、とても優れたものだと思います。本当に。

ともかくも、ドミトリィ・ショスタコーヴィチは、たしかにここに記されたとおりの人なのである。
おそらく彼は、とてもロマンティックな、あるいは軽妙な、聴いて楽しい音楽を作りたかった
のではないかと思うのだが、スターリンのいう「国威発揚の音楽」、「社会主義リアリズム」
に合わないとなんども批判され、「社会主義万歳!」的な音楽を書いて名誉回復に腐心
しなければならなかった。重苦しい、あるいは軍国チックなにおいのする音楽の方が有名に
なってしまっている現在は、彼にとって本意なのだろうか。
しかしその国の方針に合わせた曲でさえ、(現代の私達からすると、あまりにも「政府万歳!」
なにおいが強くて鼻白むこともあるけれども)たしかにその迫力や重厚さは比類ないのだ。
ま、要するに、その思想の好き嫌いはさておいたとしても、カッコイイのです、単純に。

井上道義さんはショスタコーヴィチの専門家で、OEKでもときどき演奏されるそうなので
(ただ編成が足りないのじゃないかな?)、あの迫力を生で聴く機会を楽しみにしている。
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