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An der schönen blauen Donau [ピアノ・トランスクリプション]

ヨハン・シュトラウス2世、「美しく青きドナウ」。膨大なクラッシック音楽の中でも、
世界中でおそらくもっとも親しまれている曲のひとつだろう。
ほとんどは管弦楽曲として。しかし実は最初は合唱曲だったらしいですね。

そしてこの曲にも、豪華絢爛たるピアノ用編曲が存在する。
アドルフ・シュルツ=エヴラー編、「ヨハン・シュトラウスのワルツ『美しく青きドナウ』の
テーマによるアラベスク」というのが正式名称(たぶん)。
きらめくような高音、威風堂々たる低音、緩急も強弱も自由自在な変幻ぶり。
このトランスクリプションをきけば、管弦楽なんてタイクツなものだ、と思わずに
いられない(オケ好きの方、ピアノ偏執狂のタワゴトだと思って流してください)。

オーケストラが、たとえば西洋近世の女王や王妃の肖像画にあるような、どっしりとした
厚手の織に金糸銀糸で刺繍をほどこした豪華なドレスだとすれば、
ピアノ・トランスクリプションは、ふわふわのシフォンやサテンにレースやビーズ、宝石や
スパンコールをいっぱいあしらった、キラキラと軽やかにひらめくドレスなのだ。

冒頭は、泉から音があふれ出す。差し込む陽光にきらめきながらあふれるその勢いは
弱弱しく、今にも止まるのではないかと思わせるようなゆったりとしたリズムで、しかし
確実に少しずつ溜まり、やがてあふれて流れ出す。
しがらみから解き放たれたかのように、勢い良く流れ出す水の歓喜。
まだ山がちで、せまく急な流れは跳ね回り、水飛沫を散らして、周りの木々や岩と戯れる。
やがて流れは平地に入り、川幅も広く流れは緩やかになり、両岸には街が見えてくる。
人々は川に橋を架け、その上を行き交い、また舟を浮かべて物を運んだり遊んだり、
活気にあふれた生活をしている。川を見つめながら、語り合ったりもするかもしれない。
そんなひとの営みを見守りながら、川は悠然と流れる。陽射しをキラキラと反射し、
また夜の月を穏やかに水面に映しながら。

この曲に関しては、どうしてもこのひと、というピアニストがいる。
Jorge Bolet、ホルヘ・ボレ(ボレットと表記されることも)である。
初めてこの人のこの曲を(もちろん録音だが)聴いたとき、本当に魂を抜かれてしまった。
その艶やかさ、鮮やかさに、10分ほどの演奏の間に完全に魅了されてしまい、
その後しばらくの記憶が曖昧になっているほどだ。

この人の音のつややかさときたら、ちょっと反則だといいたくなるほどに色っぽい。
それだけでも強烈な破壊力だというのに、それに加えてこの演奏には、濃密なまでの
生き物の気配がある。自然を愛し、人を愛し、あたたかく見つめる眼差しがある。
こんなにあたたかで、包容力のある、しかも極上の美しい曲の演奏を聴かされては
たまらない。私はあっさり、ボレ小父さまに陥落してしまったのだ。

YouTubeのこの動画は、音が良くなくて大いに不満なのだが、それでもその片鱗程度は
味わえるのではないかと思う。

http://www.youtube.com/watch?v=dMjWRV1ufEM
http://www.youtube.com/watch?v=TcHjIFgNW0M
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